怖い話でもない話

以下ジャニーズ全く関係ないオカルト(?)話です。自担がまたもや週刊誌にわけのわからん載り方をしたのが一番ホラーだし、別に損も得もしないしょうもない内容ですが、お暇な方はお付き合いください。




私は怖いものに関することが好きなのだが、幸か不幸か、霊感というものが全くないので、実際に幽霊に遭遇したり怪奇現象を体験したことはない。そして、正直あまり幽霊を信じていない。科学的根拠もそうだし、この目で見たことがないから。ホラー映画を平気で見れるのも、実際に現れたことがないから、現れるはずがないからという自負が作用しているかもしれない。だから、怖い映画や番組を見ても、一人でトイレにはガンガン行くし、おばけが部屋に現れる心配を全くしない。それより、一人暮らしの虫とか、預金残高のことを思って、夜中にふと怖くなる。


さて、この前、知り合いに怖い話、というか体験談を聞いた。
金縛り中の出来事らしかった。
寝ていたら体が動かなくなって、意識が冴えた。どこからともなく声がする。目を開けてはいけないと思いつつ、目を開けると、白い人影が体の上に乗っかっている。
めちゃくちゃよく聞く、怖い話の教科書1ページ目のような、擦られ倒した、なんのオリジナリティもない(めっちゃdisるやん)エピソードだったが、私はこれは本当の話なのだろうと思った。

金縛りに遭ったことのある方は多いと思う。そしてその中には、金縛り中に幽霊を見る人というのが一定数存在する。これは怪奇現象でもなんでもなく、金縛り中に、自分の部屋に幽霊が出てくる夢を見ている、ということらしい。脳が起きていて、体が起きていない時になる現象で、レム睡眠、ノンレム睡眠、的なやつだ。あまり詳しくないけど、金縛りの時に幽霊を見る人にとって、それが「ただの夢」であることは常識である。中には幽体離脱したり、寝てる自分を上から見たりする人もいる。でもこれも、一部の人には信じ難いだろうが、そういう夢を見る体質ということなので、あるあるらしいのだ。

私も、メッチャ金縛り体質である。初めて金縛りに遭遇したのは恐らく、高校受験前の中学3の冬くらい。それから、テスト前とか、部活の大会前とか、受験の時とか、そういう精神的に忙しい時期には必ずと言っていいほど金縛りになった。それも、年に数回ではなく、そのシーズンは二週間ほど、ほとんど毎日、一晩に三回くらい。寝始めて、体が動かなくなって目が覚めて、またウトウトして体が動かなくなって、の繰り返し。なので、通算でゆうに500回は超えているのではなかろうか。金縛りになったことがない人にとってはドン引きだと思う。友達に話したら「え、呪われてるやん」と言われた。疲れとストレスが重なるとそうなる体質らしい。大人になってからは落ち着いたが、高校の頃は一時期本気で悩むほど、そのくらいの頻度で金縛りに遭っていた。金縛りに遭いすぎて、金縛りが「くる」のが分かるようになったし、「くる」のを避けて目を覚ませるようになった。体が固まる直前、体が底のない穴にストン、と落ちるような感覚に陥るのだ。穴に落ちたらもう遅い。穴に落ちる前に、体の周りの砂のようなものがサラサラ下に向かって流れるような感触がして、それに気付いて急いで意識を冴えさせたら、現実に戻ることができ、体は固まらない。万人がこの感覚を持っているかも分からないけど、私はそうだった。

そして霊感ゼロの私でも、金縛り中は、幽霊というか、色々なものを見た。幽霊の類は全く信じないし、むしろ霊感あるねん。と言われたらわりと引いてしまう類の性格だが、金縛り中に見る幽霊の体験に関してだけは大マジである。というか、全て夢の中の話だから、厳密にいうと幽霊を見た体験ではない。

彼女は怯えて話していたし、あまり周りに信じてもらえてないのだろうな、という話し方をしていたので、私もよく遭うんです。幽霊も見ます。と言った。その人は目を見開いて、やっと仲間がおった、みたいなすがるような目付きで詳細を話しだしたから、分かる分かる〜と思いながら、聞いた。


そして、今でも時々思い出す、少し寒気のする記憶を思い出した。

それは初めて金縛りに遭った日に見た、「なにか」のことだ。
何もかもが初めてだったからか、今でも鮮明に、強烈に印象に残っている。恐怖体験が乏しい、というかゼロに近い私にとって、怪奇現象の類では、心底怖い出来事といえば、思いつく限りはこの出来事のみである。


その日は恐らく夜遅くまで起きていたのだと思う。ベッドに横たわったのは1時を過ぎていた。起きている間に眠気を逃して、ベッドに入っても何十分か、意識がはっきりとしていた。月明かりが異様に眩しかった。それでなかなか寝付けなかったのかもしれない。煌々と、瞼の裏側まで刺さってくる冷たい光だった。
しばらくして、うとうとしだして、よし、眠れるかも、という時に、それは起こった。
ストン、とベッドごと落下したような、妙な浮遊感に襲われた。それで意識が覚めて、寝返りを打とうとしたのか、体を起こそうとしたのか、体が動かないことに気付いた。体が固まってどうやっても動かない。指一本も。今では日常茶飯事なのだが、その時は何がなんだか分からずにパニックに陥った。なにかの病気か、災害で下敷きになっているのか、確かになんらかの異常な事態に襲われていると思った。
やがて声も出ないことがわかる。助けを呼びたいのに、喉がく、く、としか鳴らない。
そんなこんなで、体の硬直と戦っていると、ふと、頭の右の方に気配がした。仰向けに寝ていたのだが、右耳の上の方。なんなのかは分からないけど、とにかく何かがいる。そして、私には、なぜかそれが、「正座している人」だと分かった。自分の右上で人が微動だにせず正座しているイメージが頭にこびりついた。一人部屋だし一人用ベッドだったので、家族の誰かがいる可能性は全くないし、まずそもそも人が枕元に正座できるスペースなどない。でも気配は確かだった。なぜ人がいるのか、なぜ正座しているのか。恐怖で何も考えられなかったが、誰かが正座してそこにいる事実のみが、認識できた。
やがて、体は動かないけど、目は自由だし開けられる、というのも、初めて感覚的に分かった。
その時は、右上の何かを確認したい、という気持ちはなくて、ただこの状態から脱したい一心だったと思う。体の色々な部位を動くか試して、唯一動くのが瞼だけだった。
恐る恐る目を開ける。いつもの天井が映る。右上の何かは見えない。
私の部屋は長方形で、ドアから入って一番奥にベランダに繋がる窓と、その手前にベッドがあった。ベッドとドアの間はテレビやテーブルがあったりする空間が広がるのだ。だから、次に私は目玉を動かして、ドアへと続く空間の方を見た。

空間一面に、部屋を埋め尽くすようにおびただしい数の人が正座をしていた。脳が人影を認識した瞬間に、大勢の人の声がしだした。人影が女性か男性かは分からなかった。私を見ているかどうかも分からなかった。人の声も、女性と男性入り混じったような、とにかく大勢の人の喋り声で、ボソボソ何かを呟いていた。
私は慌てて、視線を天井に戻したが、声は止まなかった。さっきまで右上に感じていた気配は一人だけのものだったけど、今は沢山の人に囲まれているのが分かる。正座している大勢の人たちの影が天井まで伸びていた。それが怖くて、ベランダの方に視線を動かした。いつもベランダの窓のカーテンは閉めていたが、月の光が強くて、ベランダの外が少しだけ透けて見えた。
ベランダにも人がいた。大勢。人影は恐らく、こちらに体を向けて正座している。表情は見えない。とにかく人がいることだけが分かる。
人影は動くこともなく、迫ってくることもなく、ただただ私を囲んでボソボソ喋っていた。最初は私に話かけていたのか、独り言なのかも認識できなかった。内容は聞き取れなかったけど、日常語(?)ではなくて、お経のような言葉だったと思う。

体は動かないけど意識ははっきりしている。聴覚も視覚も働いて、私はしばらく天井に伸びる人影を見ながら、声を聞いていた。所謂金縛りかもしれない、と思ったのはこの時だ。
恐らく金縛りにかかって人影を認識したのに1分もかかっていない。金縛りは3分も続かないものである。でも、永遠に感じた。
声が段々と大きくなりだした。それは、一人の声のボリュームが上がるのではなく、人数が増えたような感じだった。大きさに比例して、声の距離が近付いてくるのがわかった。人がこちらに向かって増えている。近付いて近付いて、体の左右のすぐそばまできた。何を言っているかは相変わらず聞き取れない。顔の横で大勢が喋っている感じだった。

声が耳元まで来た時、



「だから言ったのに」

と言われた。はっきり覚えている。大勢が一斉に、その時だけ声を揃えて、そう言った。叫ぶでもなく呟くでもなく、感情のない声だった。

次の瞬間、金縛りがとけて、顔を動かせるようになった。恐怖で反射的に首を傾けたけど、部屋には誰もいなかった。声も聞こえない。いつもの私の部屋だった。月明かりは相変わらず眩しかったが、カーテンから透けて見えるのは洗濯物や、植木だけ。
何時だっただろうか。覚えていない。時間も構わず部屋を飛び出して、情けなくも半泣きで母親の寝室に行った。母親は寝起きが不機嫌な人なのだが、その時はわりと優しかったのを覚えている。自分も金縛り体質だったことを教えてくれて、あなたが疲れてるだけだと言った。
母と一緒に寝るのはさすがにアレだったので、とぼとぼ自分のベッドに向かったが、その日はさすがに眠れなかった。右側に正座する人の気配、部屋を埋め尽くす影、大勢の念仏のような無機質な声、そして「だから言ったのに」。全てが鮮明に脳みそにこびり付いていた。寝たらまたあれを見る、と思うと怖くて、目を閉じることすらままならなかった。


私の恐怖体験はこれで以上だ。
いま思うとクソしょうもない体験である。
あとで金縛りについて死にものぐるいで調べて、寝ながら自分の部屋(に誰かいる)の夢を見る現象が幽霊を見たと錯覚する原因だと知った。あまりにもあの夜の出来事がリアルすぎて本当に幽霊だったのではないかと思ったが、この2日後くらいに再び金縛りに遭って、その時に私のベッドの下からニュッと顔を出したのが母親だった(爆笑)ので、その時、あ、マジでこれ夢じゃん。とアホらしくなった。そうして金縛りは夢だし、一部の人間にはあるあるで、怖くないものだと認識した。

それからも金縛りで色んなものを見た。貞子みたいなテンプレ幽霊女がベッド脇や部屋の片隅に立っていたり、何かに乗っかられたりしたことは、それはそれは沢山ある。赤ちゃんの泣き声や女のすすり泣きも聞いた。男がベランダに張り付いて、ドンドンと窓を叩いていたり。でも、部屋に現れるのは幽霊だけじゃなくて、前述した母親や友達から、有名人や、ジャニーズまで、様々だった。こういう点でやっぱり夢となんら変わりはないと思った。
金縛り20回目ほどになると達人になってくるので、金縛り中でも目を開けない技や、そもそも回避する技を身につけたりして、幽霊を見ないで済むことも多くなった。「今日は疲れてるからマジで無理」とイライラすることがほとんどになって、丸っきり怖いという感情はなくなった。つい油断して金縛りに遭った際は、気力がある時は目を開けて、どんな幽霊が出てくるのかホラー映画的な楽しみ方をするようにもなった。
それゆえ、金縛りに遭った人の話を聞くのは色んな幽霊話を楽しめるので、とても好きだ。

だけど、あの初回の、部屋を覆う大勢のなにか、そしてあの生気のない「だから言ったのに」だけは、今思い出してもなんだかゾッとする。初回思い出補正なだけかもしれないが、あの時の空気は、それ以降の金縛りと、なんだか一線を画する気がするのだ。うまく言えないけど、何かが決定的に違うというか。夢の内容をあまり覚えていないのと一緒で、金縛りで見たものもほぼ忘れてしまうのだが、7、8年前の話なのに、あの日の三分間ほどの出来事は全て覚えている。声音とか、月明かりの色まで、全て。夢だとはあとで分かっても、その時の寒さとか、至近距離での大勢の発声による耳の鼓膜の振動とか、全部全部、ビデオを再生するように思い出せるから、あの時のことは本当に夢だったのか、と疑ってしまいそうになる。
そして、女が立っている、誰かがお腹に乗っている、そんな金縛りあるあるは何回も体験しているけど、あの、なんとも形容しがたい異様な光景は、後にも先にもあの一回だけしか見ていない。まあ、母親の顔がベッドの下から出てきたのもあの一回だけだけど。。。


「だから言ったのに」。
時々、あの人たちは何者で、私に何を伝えたかったのだろう、と考えたりする。私は何かの忠告を聞き落として、重大なミスを犯したまま今まで生きてきているのではないか。はたまた、気付かぬうちにあれだけの人数から恨みを買われているのではないか。考えたって所詮私の見た夢なのだから意味はないのだろうが、なんとも不気味な思い出である。
できれば、「だから言ったのに」の意味がわかる日が来てほしくないな、と思う。





彼女は初めて金縛りと幽霊に逢ったらしく、興奮して話していたので、なんだかあの夜が懐かしくなって、書いてみた。彼女にとっては生きた心地がしないほど怖かっただろうが、まあそのうち金縛りマスターになれるだろう。彼女が良き金縛りライフを送れますように...。